目の前で死んだ様に眠る彼女を見て、僕らは一体何をしたのか解らなくなった。



29.拒絶



校長に連れてこられて、保健室へと向かう。
路中、校長が何も言ってこなかったから、それがとても居心地悪い。
チラリと横目でシリウスを見れば、今だ茫然としていて。
十数分の出来事なのに、何時間にも感じられるくらいに空気が重い。
保健室へはいると、保険医と、そして鹿鳴館が一つのベッドを取り囲んでいた。
は椅子に座ってベッドに伏せている)

「どうじゃね、の様子は」

校長が尋ねると、保険医は小さく首を横に振る。
まさか、と心臓が跳ね上がったが、校長が肩に手を回し「大丈夫」だと言った。
何が大丈夫なのか解らなかったけれど、今の自分を落ち着かせるのには十分な言葉である。
静かにベッドに近付くと、鹿鳴館がこちらを見て、目があった。

「やぁ、Mr.ポッター」

伏せているが小さく反応する。
鹿鳴館の発した声は非常に穏やかだったけれど、逆にそれが恐ろしくて、なぜだか無機質な様に聞こえた。
僕達に彼女が見える様にそこから退く。

ベッドの中で眠っている彼女の顔は青ざめていて、本当に死んでいるのではないかと疑ってしまうが、微かに上下する胸に生きていると云うことが分かる。
だけどその光景はまるで葬式の様で、僕達には息をするのも許されない気がした。

「校長、らを日本に帰しましょう。ここの空気は彼女に合わない」

鹿鳴館がそういえば、校長が少し悩んだ様に声を籠らせた。
その言葉にが起きあがると、こちらを見もせず校長へ向かった。

「あたしもそれが良い。もうこんな所、一秒たりとも居たくない!」
「そんな言い方しなくても良いじゃないか!」

僕は思わず口走って、ハッと口を手で覆う。
彼女がこちらを睨み付けた。
意外にも、泣いていると思っていた彼女の瞳には涙の一粒も浮んではいない。
隣でシリウスが息を飲むのが分かった。
なぜなら、今まで見たことの無かったの怒りの表情は、と本当に瓜二つだったから。

「そ、それはお前のために「騎士気取りはもう止めて!!」

シリウスの台詞を掻き消した。

「私は始めに言ったよ、『誤解だ』って。なのに聞き入れなかったのは誰!?」

そこまで言うと、息を整えようと方を上下する。
僕達は何も言い返せないでいた。

「こんな事になるんだったら、あの時ちゃんと言っておけばよかった……」

俯いた状態で声を籠らせる。
ギュッと握り拳を作ると、顔を上げ真っ直ぐにシリウスを見据えた。

「貴方なんて、大嫌い」

の声は彼に届いたのだろうか……。

見れば大きく目を見開いた後、やはり悲しげな表情を含ませたがそれは表には出さず、少し、俯いた。
高揚したの頭を校長が優しくなでると、気が緩んだのか大きな粒を瞳からこぼして泣き始める。
そしてまたベッドに伏せたのを見た校長は、悲しげに眉を落とすと鹿鳴館と目配せをする。
彼は頷くと二、三度の頭をなでてから此方を見る。

「じゃあ出ようか」

その言葉に「え……?」と言葉を漏らせば、

「何? まだ居たいの?」

鹿鳴館の緩やかな笑顔がそれを許さないかの様で、雰囲気に飲まれて首を縦に振ってしまう。
「そう」と言った後、今度はピーターを見た。
その瞳は先ほど自分に向けられた物とは違い、優しい感じに見受けられる。

「君は?」
「……此処にいる」

予想外の言葉に思わずピーターを見た。
彼は毅然とした態度で鹿鳴館を見ている。

二人の間に何があるか分からない、しかしそこには確かに信頼の様な物が見えた気がした。





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UP/06.07.18