中には腰を抜かし、呆気にとられていたシリウス達と大きな竜巻が一つ。



27.沈着



本も椅子も机をも巻き込んで、激しく渦巻いている。
はシリウスの襟首を掴み上げた。

ちゃんは何処!?」

大きくその身体を揺さぶってみても、シリウスは何も答えない。
ただ、竜巻の方へと向けられた彼の瞳は恐れを浮かべていた。
は一体何処に、焦るの耳に微かな声が届いた。

「〜ちゃん…、お姉ちゃん」
「―――ちゃん!」

周りを見回してもの姿はない、しかしこの泣き声は確かに妹のものだ。
自分の片割れの声を聞き間違える筈がない。
まさかと思いジッと竜巻を見つめると、その中心にの姿を見つけた。
しかしその髪はいつもの紅色ではなく、自分と同じ黒色へと変わっている。
は息を呑んだ。

ちゃん!」

手を伸ばしたが、鎌鼬によって弾かれる。
袖は破れ、の腕には深い傷がパックリと口を開けた。
そこから流れ出る血に顔をゆがめながらも、もう一度と手を伸ばす。

「止めろ!」

の血を見て我に返ったシリウスが、伸ばす手を掴み引き込んだ。

「やめろ? ふざけたこと言わないで! ちゃんが、あの子があたしを呼んでるの。あたしが行かなくてどうするの!」

シリウスの手を振り払って睨み付ける。

「だからってそのまま行ったら、がボロボロになる!」
「そんな傷、ちゃんが傷付けられたものに比べたら、全然痛くもない!!」

煩いはずのこの部屋に、の言葉が響く。
真剣なその瞳に、シリウスは何も言えなくなった。

「大体、これくらいの風。あたしがどうしようにも出来ないわけ、ないじゃない」

は竜巻に向き直ると、左手をかざし、素早い動きで印を描いた。

『疾!』

一瞬、突風が部屋を包み込んだ。
すると、バラバラになった家具が音を立てながら地面に落ちる。
の竜巻と、逆巻きの風邪を起こし相殺したのだ。
はすぐに、妹の元へと駆け寄った。
は小さく膝を抱え、何度も「お姉ちゃん」と呟きながら泣き続けている。
その姿はまるで迷子になった小さな子供のようだ。
はそんなに、手を触れるのを躊躇したが、そっと両手を肩に添えた。

ちゃん、あたしはここにいるよ」

声が震えた。
の痛烈な泣き声に、胸が締め付けられつられて涙がたまる。
の顔をのぞき込み、目を合わせてもその瞳に光は無く、の姿を写してはいなかった。

「ねぇ、あたしここにいるよ…。お姉ちゃん、ココにいるから!!」

怖くなってを強く抱き締める。
また自分は、この子を救えないのだろうか。

「落ち着いて」

自分の肩に手を置かれ、見上げればがいた。

「記憶がフラッシュバックしているだけだから」

の前に膝をつく。



の呼びかけに小さく反応する。
ゆっくりと顔を持ち上げたに、優しく微笑みかけた。

「もう、大丈夫だよ」
っ…!」

から離れ、に手を伸ばすとそのまま倒れ込む。
急いでがのぞき込むと、小さく呼吸をしていた。
どうやら眠ってしまったようだ。
は胸をなで下ろす。
を抱えると、静かに立ち上がる。

「保健室、行こうか」

は慌てて立ち上がり、の後を追う。
「あぁ、そうだ」と、急に立ち止まるものだからの背中にぶつかった。
なんだと思い、視線の先を見れば――いつの間に来ていたのだろう――校長がシリウス達の側に立っていた。

「彼らを、任せます」

穏やかに言ったそれが異様に冷たくて、背中がざわついた。
その感覚に一瞬息が出来なくて、ヒュッと喉が鳴った。
校長は何も言わずにただ頷くだけだった。





< >

UP/06.05.04