カシャンと、シャーペンの金具が特有の音を立てた。



26.違和



は自学によく、シャープペンシルを使っている。
と同じように、羽根ペンは苦手なのであろう。
日本にいた時から使っていた愛用のソレが、筆箱の中から滑り落ちた。
リリーとには先に行くようにと言い、ソレを拾おうとしゃがんで手を伸ばす。
もう少しで届こうとした所、まるで手が石になったかのように固まった。
―――音が聞こえない―――
人がいないせいではない、空気がピンと張りつめているのに、は耳の奥が痛くなった。
前にも同じ体験をしたことがある、そう感じたは何時のことだったか思い出そうとするも、耳の痛みに考えが上手くまとまらない。

「はい」

声を掛けられて顔を見上げれば、=鹿鳴館が自分と同じように腰を落としていた。
その手には自分のペンが握られていて、が礼を言って受け取ると、は何も言わずに立ち上がる。
なぜだかその姿に目を取られ、の首も同じように動いて上を向く。
ボヤッと自分の姿を見ているに、は口元を緩ませた。

「くるよ」

やけにその言葉がハッキリと聞こえ、動いた唇に目を見張った瞬間だった。
凄まじい爆音と地響きが鳴り響く。
揺れる地面にバランスを崩して倒れ込んだヤオイの前に、は真っ直ぐと手を差し伸べた。

「来て。が、泣いてる」

そうだ、この感覚はあの時と同じなのだ。
思い出したは手を取って、そのままに詰め寄った。

ちゃんの居場所、知ってるの?! 教えて!!」

「いいよ」と、は壁に手を掛け何かを話しかける。
すると煉瓦の壁が二つに分かれ、そこには真っ直ぐに一本の道がのびていた。
がそこに足を踏み入れたのを見て、呆気にとられていたも我に返り、目付きを変えるとその後を追う。
橋のように思えるその道の両側は見えない壁で覆われて、そこから見る景色はホグワーツ内の廊下や階段、教室が入り組み歪んで見えた。
宙にぽっかりと浮いているこの道だけが、逆に異を唱えているようだ。

「この空間が歪んでいるんだよ」

不思議に感じていたの心を読んだかのように、が穏やかに言った。
「もう少しだからね」、そう言って歩くペースを少し速める。
歩いているだけなのに、だんだんと先へ進むに、思わず小走りになってしまう。
時間にして本当に一、二分くらい。
は急に立ち止まり、左手をゆっくり持ち上げると、その人差し指で真っ直ぐに奥を指す。
がその方向を目で追うと、その先には一つの扉があった。
衝動的に、を押しのけるように駆けだした。
が扉に近付いた途端、先ほどまであった道は消え、元の廊下になる。
瞬間気を取られたが、そのまま体当たりをして扉を破り開けた。






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UP/06.04.17
とりあえずココで切ります。