「やぁ、面白そうな話だね」

不意にかけられた声に、シリウス等は一斉に振り返った。



22.誘惑



シリウス等は、明日実行する計画を立てていた。
そこにはピーターはいない。
彼は作戦に入る前に、教師に呼び出しをされたためだ。
しかたないと、ピーター以外の三人はそのまま作戦を考えた。

そこにかけられた声。
地図を背に隠して声の主を睨み付けた。
薄暗いこの部屋では相手の顔がよく見えなかったが、ゆらりと光るランプの明かりでその金糸が光り、すぐにそいつだと解った。

「鹿鳴館…っ」

シリウスが苦々しく呟く。
はそんな彼を見て、愉快そうに顔を緩めた。
一つ、歩を進めると靴の裏の堅い音が部屋に響く。

「何のようだ」

どうやってココを見つけたのか、いつの間に入ってきたのか、どこから聞いていたのか。
ジェームズには問いたいことが山ほどあったが、口から出たのはその中で一番シンプルで重要なものだった。
睨み付けるようにを見つめた。

「何のよう、ね。ぞんざいな言い方で、僕は君たちに嫌われるような事をしたかな?」

ギリッと奥歯を噛みしめる。
リーマスはのこういう態度が嫌いだった。
知っている、解っているくせにとぼけて戯けて、挑発するようなこの態度が。

「どこから聞いていたか知らないが、今すぐ出て行って貰おうか」

本来なら相手の記憶を消すか脅すかで、口外する危険は取るのだが、相手がだとそう上手くはいかず。
ジェームズはただ一心に、とこの部屋に共にしたくなかった。
背中が嫌な汗をかいている。

「別に出て行ってもあげなく無いけど、いらないの? 情報」

がそう言った。
罠かもしれない、ジェームズはごくりと生唾を飲み込んだ。

「蛇寮のヤツの情報なんているかよ」

シリウスが吐き捨てるように言った。
はゆっくりとシリウスの方を向き、ニヤリと口角を上げる。

「君は随分と蛇寮が嫌いみたいだね」

一歩ずつシリウスに近付く、それに怖じ気づく身体をグッと押さえた。

「当たり前だ、誰がお前みたいな奴らを好きになるかよ」

そう言ったシリウスに、はクッと喉を鳴らして笑う。
途端シリウスは左肩に大きな痛みを感じた。
ガタンと、椅子が音を立てて倒れる。
シリウスは地に這いつくばるように倒れ、その上にがシリウスの左肩を足で押さえつけていた。
目にも留まらぬ速さで蹴り倒されたのだ。

「自分にもその血が流れているのに?」

シリウスは顔が熱くなった、今すぐ反撃したかったが、押さえつけている足が重くて身体が動かない。
ジェームズもリーマスも、シリウスを助けようとしたが、の鋭い眼光に動くことはままならなかった。

「でもねぇ、獅子寮生でも蛇寮生を好きになってくれる子はいるんだよ。例えば、君の愛しいとか」
「お前が…っ、を名前で呼ぶな…っ!」

シリウスが悔しそうに言う。
の名が蛇寮生に軽々しく口にしたのが許せなかった。

「別に僕が誰を名前で呼ぼうと勝手じゃないか、君に指図される覚えはないよ」

シリウスを押さえつけていた足に力が入る。
シリウスが小さく悲鳴を漏らしたのを見て、楽しそうに目を細める。

「痛い? そりゃあ痛いだろうね、靴底に鉄板入ってるし」

「何でそんなもの…」呟くジェームズに、「趣味」と無邪気に笑って答えた。
ジェームズは意を決したように、一歩前へ重い足を踏み出した。

「その情報とやら、貰おうか」
「ジェームズ?!」

リーマスは驚いて声をあげた。
一体君は何を考えているんだと。

「お前の目的は、僕らにその情報を渡したいだけだろう」
「……、ご名答」

はフッと笑って、シリウスから足をどけジェームズに向き直った。
シリウスは左肩を押さえながら起きあがり、に背を見せないようリーマス等の元へ後退る。

「じゃあ、教えてあげよう。の弱点を」






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UP/06.02.12