もちろん見張るなんてただの口実で。
僕は今、の本当の気持ちを知らなくてはいけないと思った。



19.契約



ネズミの姿になって、達のもとへと駆けた。
顔をあげてを見て、僕は衝撃を受ける。
彼女の瞳から綺麗な涙が溢れていて、次の瞬間僕を襲ったのは罪悪感だった。

僕はなんて愚かなのだろうと。
彼女は弱くもなければ強くもないのだと。
そして僕は、そんな彼女を救えないなんて、なんて非力なのだろうと。

「私、自分が怖いの。いつか、さっきみたいに誰かを、違う―――を殺してしまう!!」

彼女の声は酷く震えていて、を抱き締めた。
その時僕は、彼と目が合ってしまった。
もちろん、僕が動物もどきだという事を知らないだろうから、ネズミの振りをしてチュウと鳴いた。

『やぁ、ペティグリュー』

彼の唇が、確かにそう動いた。
声は出ていなかったけれど。
僕はあまりのことに呆然とそこに立ちつくす。
彼はニッコリと微笑むと、人差し指を立て、唇の添えてから宙にあてて動かした。

『彼らには、秘密』

軌跡が綺麗に文字になる。
“彼ら”とはシリウス達のことを指すのだろう。
僕はクッと息を呑み、彼と同じように尾を動かした。

『それは、解らない』

正直、怖い。
心臓が今にも飛び出しそうなほどに鼓動を打つ。
ジッと、彼の目を見つめた。

『僕は知ってるよ』

彼がニヤリと笑って続けた。

『君たちの秘密』
『月夜の秘密を持つ動物もどき達よ』
『コレは依頼じゃない』
『取引だ』

『ねぇ、ワームテール?』

頭を打たれたような衝撃だ。
彼は知っているんだ、僕のことも、シリウスもジェームズも、リーマスのことも全部。
同時に、あきらめがついた。
何故僕達は彼を恐れていたのか、それは力の強さだけじゃない。
彼のその、僕達を全て見透かす眼だったんだと、気付いた。
僕は再び尾を振った。

『僕はのために何かしたい』
『コレは僕個人の意志』
『それは彼女の為になること?』

暫く見つめ合って、彼が指を動かす。

『結果的に、そうなる』

言い回しが少し気にかかったけれど、彼が書き終えたのを見て頷いた。
僕は背を向けて尻を突き出す。

『僕は、ここで。何も見なかったし、何も聞かなかった。だから何も話すことはない』

それだけ書き残すと、彼の顔を見ないで駆けだした。





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UP/05.12.20