自分は一体、何をしているのだろう、と―――。
16.恐怖
突然、達の中に割ってはいる男の声。
チラリと視線をそちらに流すと、彼らが息を切らしてそこにいた。
「だけじゃ飽き足らないのか、とうとう他の生徒にまで手を出して」
リーマスが、いつもとは違う低い声で言う。
「何やってんだよ!」
続けてシリウスが吠えた。
は眉間に深い皺を刻む。
この期に及んでまだ言うか、と。
「“何”?」
一度視線を彼女らに戻して、体ごと彼らに向かった。
ゆっくりとしたその動作は、とても綺麗で、同時に異様な空気をまとっていた。
それを肌でヒシヒシと感じたシリウス達は、逃げたいと思う気持ちを必死に押さえる。
「見ての通りだけど? それとも貴方達は、一から説明しないと理解できないのかしら?」
「何だと?!」
バカにするように言うに、ジェームズは唸る。
彼女をその手で掴もうと、腕を伸ばしたところ、見えない何かに弾かれてしまった。
「邪魔しないでよ」
ジェームズは痛みが走る左腕を押さえ、顔を顰めた。
「だめ、ちゃんっ!」
倒れるように、が駆け込んできた。
シリウスが慌てて支えようとするが、は見向きもしないでその手を払う。
シリウスは驚いて眼を丸めた。
「お願い!」
「…何しに来たの?」
の低い声に、ぐっと押し黙る。
足が密かに震えた。
「おい、お前な「『貴方は黙りなさい、ブラック。』私は保健室へ行きなさいと言ったでしょう?」
とっさの言霊にシリウスは声が出せなくなる。
優しい口調に怒りを含んだの声は、酷く恐ろしく聞こえ、はヘタリと座り込む。
「誰か…」
声が震えて上手く出ない、本当に消えそうな声で呟いた。
「誰かお願い…」
が彼女らのほうへと向き直る。
早くしないと取り返しの付かない事になってしまう。
「ちゃんを止めて…っ!!」
「はぁ〜〜い」
間の抜けた、声がした。
いつの間にかがの隣に立っていて、誰もが眼を丸くしてを見た。
「」
が呟くのを「うん」と、答える。
ヘラッと笑って、に「少し待って」と言うと、の額に手をかざす。
は耳の奥で何か小さな音を聞くと、途端に意識が遠のいた。
倒れるをシリウスより先に片腕で支える。
「君じゃない」
シリウスに向かって言う、聞き返そうとしたがの言霊が効いて声が出ない。
はピーターの名を呼ぶと、の体を彼に任せた。
「保健室まで、連れて行ってくれるかな」
「え、あ…うん」
ピーターは自分とさして変わらぬその身を肩に担ぐと、おぼつかない足取りで駆けていった。
それを見届けたは立ち上がると、のほうへと歩を進める。
ジェームズは自分の手が弾かれた事を思い出した。
「危ない!」
さう叫んだが、何事もなくはの前で止まった。
ジェームズはあんぐりと口を開けたままだ。
の様子を見て頷くと、ジェームズ達のほうを首だけ動かして笑って見せた。
少し息を吸って、自分の両手をパァンと、音を立ててあわせる。
その音があまりにも大きくて、そこにいた者はみな、体をびくつかせた。
の顔をのぞき込むと、我に返ったらしく先ほどまでの怒気はなくなっているようだ。
「…っ、…!」
力の抜けたに、符も意味をなくしただの紙になり地に落ちる。
シリウスも自分の声を確かめた。
同時に、少女らにかかっていた浮遊呪文が消え、落ちるのをが素早く魔法をかける。
地に足を下ろした彼女らは、一斉にわっと泣き出した。
は小さく震え、その顔を青ざめている。
はそんなに微笑みかけて、「大丈夫。」と、言うと手を取ってその場から連れ出した。
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UP/05.12.11