は唇の端を強く噛みしめた。



15.殺意



迂闊だったと。

「(休み時間は基本的に一人だと言っていたじゃない…!スネイプは一体何をしていたの!!)」

心の中で彼を罵った。
続けて、謝罪した。

「(違う、彼のせいじゃない。コレは私の失態だ)」

彼を騎士と決めたのも、自分を盾と決めたのも、アイツを敵と決めたのも。
全部自分だ、敵だけはアイツと決め込んでいた自分のエゴだ。
を彼に任せると言って、から逃げたんだ。

は酷く、後悔した。

「(最初にを護る事を放棄したのは私じゃないか…!)」

音を立てて切れた唇、流れ出た血を手の甲で拭う。
を傷付けた奴らの顔は見た事があった。
以前自分に喧嘩を売りに来た人達だ。

「(許さない!!)」

階段の処で談笑していた彼女らを見つけたは、素早く杖を構えて呪文を唱えた。

「ウィンガーディアム・レヴィオーサ!」

ふわりと彼女らの体が浮かび、吹き抜けの上まで流れた。
彼女らは金切り声で叫ぶ。

「何を怖がっているの。これくらいの高さ、箒でいくらでも飛ぶでしょう?」
「ひっ、=白鳳!」

一人が言ったのを、は眼を細めた。

「あら。私の名前知ってたのね」

薄く笑ってやると、彼女らはまた小さく悲鳴を上げた。
それでも震える声をあげる。

「あ、あんたが何のようよ!」
「“何のよう”?」

鼻で笑ってから、彼女らを睨み付けた。
顔が青染めている彼女らに、『眼で人を殺せる』という言葉を、フッと頭の隅によぎらせた。

本当に殺せればいいものを―――。

は杖を持つ手に力を込めた。

「貴方達、自分が何をやったか解ってないのかしら。に手を出しておいて!」

ゆっくりと彼女らに近づいた。
石畳の廊下に靴音がやけに響く。

「ねぇ、このまま私が魔法を解いたらどうなるかしらね?」

綺麗に唇が弧を描く。
彼女らは眼を見開いて首を横に振る。
既に声を出す事もままならないようだ。
は体を少し乗り出して、吹き抜けの下をのぞいた。
先は見えず、ただ暗闇が広がっている。

「そう言えば、ホグワーツには用務員でも知らない場所があるんですってね」

呟くように言った。

「ここから落ちれば確実に死ぬわよね。万が一助かっても、戻ってこれないかも」

フフッと笑って、顔をあげた。
その顔は笑ってはいたものの、眼だけが異様に冷めていた。

「でもね、それだけじゃ私の気が済まないのよね」

ポケットから数枚、字の書かれた紙を取り出すと宙へと投げた。
それらは彼女らの下で円になり、バチバチと音を立てながら光を放つ。

「魔法族の貴方達は電気なんて知らないでしょう?」

その眩しさに、少しだけ眼を細める。

「感電死ってね、相当つらいらしいわよ? 全身痺れて、中から血が沸いて」

ボロボロと涙を流す彼女らの顔は、化粧が崩れて醜くなっていた。

「ねぇ、」

―――さよなら―――

の唇がそう動く。
杖を大きく振り上げた。



「止めろ!!」





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UP/05.12.10