バシャンッ。
トイレの個室に入った途端にかけられた水。
08.悪寒
制服から滴る水を絞りながら、はため息をついた。
最近こういう嫌がらせが多い。
直接目の前には現れず、陰からの行為。
ココの人達も、少しは学習しているようだ。
今ここに、教科書を持っていなかったことを幸いに思いながら、濡れて顔に張り付いてくる髪を、後ろに一つにまとめて括る。
流石にこのまま授業に出るわけもいかず、いったん部屋に戻ることにする。
といっても、今からじゃ授業に間に合うわけが無く、今度からは壁を張ろうと考えて。
急いでも疲れるだけなので、のんびりと誰もいない廊下を歩いていた。
吹抜ける風が、濡れた体を冷やす。
下の廊下から、バタバタと騒がしい足音と、聞き慣れた声がして、のぞいてみればが二人の少女と一緒に走っていた。
たぶん、あの二人がリリーとというのだろう。
「わーーーんっ、遅刻しちゃうよーーっっ!」
「があんな事してるからっっ」
「二人ともごめん〜〜〜!」
そんなやりとりを見て、プッと噴き出す。
昔の自分達と一緒で笑えてしまった。
は本当に変わらないと。
『えーーん、遅刻だよ〜〜〜っっ』
『がいつまでも寝てるからっっ』
『だって〜〜〜〜〜』
とたん、ズシンと石が落ちる。
その、あまりの重さには勢いよくから視線を外すと、手で口を覆った。
額から冷や汗が流れる。
「…っ!」
近頃は、を見るたびに自分の中に石が落ちるのを感じていた。
その石の正体はわからず、消し去ることも知らないは、ただその石を自分の中に溜める。
そして、石が落ちるたびに何とも形容しがたい感情が、自分の中で蜷局を巻いた。
「(最近、私、変だ…!)」
確実に溜まるその石に、恐怖した。
このままではいつか自分が違うモノになってしまう。
このままではいつか自分はを傷付けてしまう。
途端に来た吐き気に、は来た道を走り出した。
トイレに着くと、乱暴に戸を開けてすぐに吐き出した。
あまり食べてない為、出るのは液ばかり。
胃液で喉が痛くなった。
どんなに吐いても吐き気も蜷局も治まらず、はその場にしゃがみ込んだ。
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UP/05.11.12