「あー―っ、ちゃん!」



07.友人



は嬉しそうに声を上げた。
その大きな声に、司書さんに睨まれて慌てて口を手で覆う。
片手を離した事で崩れた本を、地に着く前に彼が受け取った。

「なんでこんなに持ってくるんだ」
「やはは〜、ちょっとどれが良いのかわかんなくて」

呆れた様にため息をついた彼に、申し訳なさそうに笑う。

「(…あ…れ……?)」

そんな二人の様子を見て、は少し、胸が重くなった。
それは小石くらいの本当に小さなモノ。
コツンと、自分の中に一つ、落ちた。

は手に残っていた本を机に置き、音を立てない様に静かに席に座る。

ちゃんも勉強?」

聞かれて、ハッと我に返る。
小首をかしげた姉に、慌てて返答する。

「あ、え、えぇ…。あの…、この人…」

最後まで言い切らないに、は「あぁ、」と気付いて、

「ここで知り合ったセブルス・スネイプ君。魔法薬学が得意で教えてもらってるの」

同じ場所を見つけるとは流石双子、と言ったところだろう。

は、無垢に笑ったを見てまた一つ、コツンと落ちるのを感じる。
それと同時に警戒心が解けて、溜めていた空気が抜ける様に息を付く。

「あぁ、そうだったの…。さっきは失礼したわ、Mr.スネイプ。知っていると思うけどよ」

返してくれるとは思わなかったが、手を差し出す。
いくら今の現状がどうあれ、初対面に、しかも身内が世話になっている人物に対し、礼儀を欠いたのは本当だから。

「Mr. はいらない。こいつから色々と聞いている」

そう言って握り返してくれた。
こいつ呼ばわりに少し引っかかったが、それほど親しいという事なのだろう。
さして嫌な気はしなかった。

「聞いて、ちゃん。セブルス君はね、ちゃんの事悪く言わないんだよ」

嬉しそうに言うに、は耳を疑い目を丸くしてセブルスを見つめた。
彼は当然、と言う様に息をつく。

「僕はあんな奴らの下らない話に、踊らされるほどバカではない。それにお前達二人の様子を見れば解る事だ」

は、ココを見つけた時よりも、の笑顔を見た時よりも、嬉しいと感じた。
味方、と言うわけではないが、自分を信じてくれる者がいただなんてと。

「でも驚いたわ、てっきり同室の子か、その……彼らと一緒かと思ってたわ…」

すこし、言うのを躊躇ってしまった。
名前を出す事さえ嫌な人物。

「うん、リリーちゃんとちゃんって言うんだけど。授業とかご飯の時はいっしょだよ。でもやっぱりそれぞれ予定とかあるし、休み時間はバラバラなの。シリウス君達は…」

間があく。
は珍しく眉間にしわを寄せた。

「正直、嫌い。何も知らないでちゃんのこと、悪く言うし。リリーちゃんも、ちゃんも、彼らのこと善く思ってないから。向こうが勝手に着いてくることはあるけど、基本的に一緒にいることはないよ」

が、ハッキリと彼らを『嫌い』と言ってくれたことが嬉しかった。
大切な自分の片割れが、自分と同じ感情を共有するだけのこと。
子供のようなそんな事が嬉しくて、先ほど溜まった石なんて気にならなかった。



あぁ、神様。
どうか、いつまでもこのままで―――。





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UP/05.11.12