06.他人



見上げれば立ち並んだ本棚。
中には新しい物から古い物まで、様々な本が隙間無く詰められている。
ホグワーツの図書館。
はその大きな扉を押し開けた。
中では、すでに就職活動を始めている7年生や、本を読む者、勉強する者、昼寝をする者で溢れていた。
皆がその音に動きを止め、を一目見ると、一度顔を顰めて再び行動に戻る。

ここには沈黙という確固たる掟がある。
表だって嫌がらせが出来ない為、は頻繁にココを訪れていた。

はもうそんな態度には馴れてしまっていた。
そんな自分が少し嫌になりつつも、他には目をくれず真っ直ぐに奥へと歩を進める。
その先には一つ、人には知られていない机があった。
他のと比べ格段に日当たりは悪いが、人があまり来ず本棚の陰になって一見では分からない所にある。
もつい最近見つけたばかりで、一人になれるそのスペースを大変気に入っていた。

しかし今日に限って、人がいた。
本人は本を読んでいる様だが、隣の席に教科書や参考書が開かれていた。
背しか見えないがこんな所にいるのだ、おそらくこの人物も他人と関わるのを嫌うタイプなのだろう。
深く考えずに奥の空いている席へと向かった。

「ここ、使わしてもらうわ」

有無を言わさない言葉で席に座る。
少し高めの男の声で「好きにしろ」と、小さく聞こえた。
チラリと横目で見ると蛇寮色のネクタイが見えたが、にとってそれはどうでも良かった。
手早く教科書とノートを広げる。
羊皮紙は使い慣れないので、自学の時には使っていない。
開いた教科書は【闇魔術に対する防衛術】、はこれが苦手だった。

元々、日本魔法は闇魔術に近いモノである為、それに対する防衛術は日本魔法を否定する様で理解したがった。
特には日本魔法をほとんどと言っていいほど会得していたので尚更だ。

しばらく教科書と睨みあっていたが、全くペンが進まず頭を抱えた。

「姉妹でも苦手教科は違うんだな」

ポツリと聞こえた声に顔を上げた。
発した本人は素知らぬ顔で本のページをめくる。

「どういう事かしら?」

目の前の人物を睨み付けて、低い声で言う。
男は手にしていた本を、パタンと閉じてに向かった。

「言葉のままだが」
「…言い方を変えるわ。何故にとって他寮生である貴方が、の苦手教科を知っているのかしら?」

嫌みを含めてゆっくりと言うが、男はものともせず。
自分の隣に広げられている魔法薬学の教科書へと視線を落とした。

「僕が教えているからだ」
「なんですっ「あれ?」

男の言った事が一瞬理解できず聞き返したが、その声は高い女子の声によってかき消された。
見ればが、今にも崩れそうな、大量の本を両の手で抱えて立っていた。





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UP/05.11.04