人の噂とは早いものだ。



05.交錯



初めの事件から一週間が過ぎたのだが、知らない人は数えるくらい、ほぼ全生徒に一連の事が伝わっていた。
もちろん、尾ヒレが付いて。
それまで仲の良かった蛇寮生さえもがを邪険にし始めた。
物が隠される事はもちろんのこと、中傷、罵声は当たり前となっていた。
その為、といる時間が自然と多くなっていた。

「ずいぶんと痩せたんじゃない?」
「お陰様で。ダイエットには最適な場ね!」

夕食、席に着いて早々、が言うのを少し強めに言い返す。
流石にストレスが溜まっている様だ、お互いにしか聞こえないぐらいの小声で会話する。
自分と仲良くしているに、被害が及ばないようにとのの配慮だ。
まぁ、に手を出す者が無いに等しいのだが。

は頭を抱えて否定した。

「あぁ、ごめんなさい。貴方にあたるのは間違いだったわ。はただ自分の意志通りにしているだけなのに…」

側でも仕掛人側でもない存在だった。
言ってしまえば傍観者。
今はただ、幼馴染の縁で側にいるだけで、自信は愉快犯だ。
いつ、どちらの味方をするか解らない。

「ただ今日はちょっと…」
「あぁ、月のさわりか」

さらりと言ったに、は口に含んだ紅茶を思わず噴きかけた。
それを何とか飲み込んで呼吸を整える。

「何で知ってるのよ」
「秘密」

頬を赤く染め、キッと睨み付けるに対し、至極楽しそうに人差し指を立てて唇に添えた。



「やぁ、ずいぶんと楽しそうだね」

その声は二人にとってとても聞き慣れたモノで、にとっては気分を害するモノだった。

「ポッター…」
「気安く呼んでもらいたくないね」

気でもふれたのか、蛇寮をひどく嫌っているあの四人が蛇寮のテーブル、のすぐ側まで来ていた。
ジェームズの返答に少しばかり頭に来たが、こういう争いは熱くなった方が負けだ。
は少し間をおいて睨み付けた。

「それは失礼したわ。それで? 何かご用かしら、Mr.」
「忠告してあげようと思ってね、随分と思い上がってる様だから」

答えたのはリーマスだ。
は心の中で舌打ちする。
彼はに近いモノを持っていた為、にとってとても扱いづらい存在だった。

「そこの鹿鳴館は別として、君の味方はこの学校にはいないから」

の「あ、知ってた」と言う呟きをよそに、は思わず笑ってしまった。

―――思い上がってるのはドッチだ―――と。

「確かに、私の味方なんていないわ。でも、この学校の全ての生徒が貴方達の味方、と言うわけでは無いわね」

ジェームズの表情が一瞬揺らいだ。はそれを見逃しはしない。

「…へぇ、それはどういう事かな?」

掛かった、と口の端をあげる。

「言葉の通り。基本的に蛇寮生は貴方達の事が嫌いだし、悪戯した相手には恨みを買う事もあるわね。特にブラックは女性関係で。飽くまでのファンであって、貴方達ではないわ」

流石にこれにはぐっと押しとどまった。
は間違ってないから。

「それでも結果は同じだ」

シリウスの声を聞いて、は眉を顰めた。
意外と彼らが弱いと思うのと、子供じみた台詞にだが、一番の理由は彼らの中での一番聞きたくない声だったからだ。
今までためていたモノが沸々と沸き上がるのを感じた。

「あんまり熱くなると、周りを見失うよ」

の言葉にハッと、我に返り、深呼吸をして落ち着かせる。
今更ながら、の冷静さには味方で良かったと思う。

「えぇ、そうね。ありがとう
「おや。もしかして君達は付き合っているのかい?」

ふざけた様に言ったジェームズには、

「ハァ?」

思わず声が出た。
どこをどう見たらそんな発想が出るのやら、隣のを見ると声を押し殺して笑っていた。

、笑いすぎ」
「ごめんごめん、余りにもMr.ポッターの発想が面白くて」

今だクックッと喉を鳴らすに、今度はジェームズが顔を顰める。

「Mr. も、下らない冗談は止めて頂きたいわ。私とが付き合う? あり得ないわ」
「そんなに照れなくても良いじゃないか」

何を勘違いしているのか、ジェームズはそう、決めつけて言う。
はまさかと思ってを見た。
はニッコリと笑って「当たり」と言う。

「あっきれた、まさか全生徒?!」
「生徒はね」

悪びれもなく答えたに、は深く、ため息をついた。
ジェームズ達は訳が分からず、その様子をぼやっと眺めていた。

「とにかく!」

バンッ、と音を立てて机を叩き、席を立つ。
キッとジェームズ達を睨み付けた。

「私は、この三ヶ月に西洋魔法を会得しなくちゃいけないの。貴方達の下らない遊びには付き合ってられないわ」

きつく言って席を離れる。

「おっと、彼がどうなっても良いのかい?」

ジェームズが言った。
見ればシリウスとリーマス――ピーターは弱々しげに――が、に杖を向けていた。
一方は、慌てるでもなく。のんきに紅茶をすすっている。
そんな様子を見ては鼻で笑った。

「お好きにどうぞ」

そう言うと、彼は顔を赤くして「本当に良いのか!」と叫んでいたが、は無視をして出て行った。

―――が貴方達ごときに負けるはず無いじゃない―――

暫く動かずにそこにいると、爆音と煙と、涼しい顔をしたが出てきた。
「ほらね」と呟くと、踵を返してその場を離れた。





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UP/05.11.02