事の始まりは転入二日目、魔法薬学の授業だった。



01.始業



には共に編入した双子の姉、がいた。
と違い、小柄で瞳が大きく、笑うと華が咲くよう、正に世界が『可愛い』と思う容姿をしていた為、一目で全生徒が魅入られてしまったのだ。
一方、は『美人』と称される容姿だったが、全く笑わなかった為、近寄りがたい雰囲気を出していた。
二人はそれでもとても仲が良く、性格の為組分けで、は獅子寮に、は蛇寮に分かれたが、お互いそれぞれの寮で頑張ろうと約束している。
魔法薬学は初授業にして、初めての獅子寮と蛇寮の合同授業だった。
獅子寮生と蛇寮生は、主観の違いから昔から仲が悪く、魔法薬学教室の独特な雰囲気と相俟って、教室の中はピリピリと緊張していた。
二人はそれを察して、あえてお互い離れた席に着いた。

しばらくして現れた教師は、獅子寮生を見るなり、ニヤリと口の端をあげて笑う。
獅子寮生はまたかと項垂れ、ため息をつく者もいた。

何の因果か、この授業の教師は決まって蛇寮生の出身者であり、何かと理由を付けて獅子寮から減点するのである。

ゆっくりと教室を見回し、早速姉のを指名した。
もちろん、彼女が転入生の獅子寮生だからである。
彼は一つ質問した。

「マンドラゴラとは何か?」
「え、えと。根っこが人の様な姿をしていて、地から抜くと叫び声をあげ、それを聞いた者は死ぬ、です」

日本出身でも、西洋の最低限の知識は持ち合わせている。
は少し脅えながらもはっきりと答えた。
獅子寮生のみんなは小さく喜び、教師は軽く舌打ちをした。
日本人なので英国の事は知らないだろうと、軽視していたからである。
しかしこれくらいで終わるはずがない。
獅子寮生を冷たいその目でひと睨みして、再びに向き直った。

「それだけかね?」
「・・・え」
「それだけか、と聞いているんだが?」

は口ごもり下を向いてしまった。
いくらマンドラゴラが二年の取得課題であっても、は転入生である。
しかも、マンドラゴラは本来、薬草学の範囲である。
知るよしもなかった。

「どうした、マンドラゴラは二年の範囲だぞ。答えられぬか?」

そう、あえて誇張して言う。
クスクスと蛇寮生から笑い声が聞こえた。
の瞳には今にもこぼれ落ちそうな涙が溜まっていた。
その中、スッと、手が伸びた。
だ。

「何だね、Ms.白鳳」
「私が、答えます」

とたんに、蛇寮生から笑い声が消え、獅子寮生からざわめきが起こる。
教師もこれには目を見開いた。
まさか蛇寮生の彼女がこんな行動に出るとは思ってもみなかった。

「・・・いいだろう」
「はい。マンドラゴラはマグルには通常、断頭台の下で人の血を吸ってできると言われていますが、それは誤認であり、本来解呪術に用いられます。また、呪術にも使え、健康に良く美味な為、食される事もあります」

スラリと述べたに、獅子寮生は苦虫を噛んだ。
自分達が減点される事が確実になったからだ。

「素晴らしい、流石蛇寮生だ。五点やろう。それに比べ、獅子寮生はまともに勉強もしていないのかね? 五点減点だ。」

獅子寮から盛大なため息がこぼれたのだった。





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UP/05.10.08