「今日から共に生活する、=白鳳と、=白鳳じゃ。皆仲良くのぅ」

そう、校長に紹介されたのは、私達が三学年に転入して来た初日だった。



00.日常



イギリスにあるホグワーツ校、魔法界に数ある学校の一つだ。
多くの生徒で賑わっているはずの廊下は、不自然なほどに静まりかえり、少女の足音だけが響いている。
少女の名は、=白鳳。今からちょうど一ヶ月前に、日本の魔法学校から交換留学生としてやって来た。
日本人には珍しく、高い身長にスラリと伸びた四肢、綺麗に切り添えられた髪は真紅に染められている。
嫌でも目を引く姿をしていた少女は、今はソレとは違う理由で注目されていた。

「さっさと日本に帰らねーかなぁ、あいつ」
「本当、目障りなんだよなぁ」

それを初めに、生徒の中からクスクスと笑い声が漏れる。
少女は訳あって「虐め」を、学校のほぼ、全生徒から受けていた。
先ほどの中傷に目も呉れずに、少女は目的地に向かって歩を進める。
相手にすることが無駄だと分かっているからだ。
しかし、そんな態度が気に入らないらしく、陰で暴力を受けている体は、各所々悲鳴を上げている。
突然、先ほどまでの嘲笑がピタリと止んだ。
彼らが現れたのだ。

教師達からは問題児として、生徒達からは好意の目を受けている、通称『悪戯仕掛人』達だ。
彼らは嫌な笑みを少女に向け、真っ直ぐにこちらへと来る。

「あっれー? 君、まだ居たんだ」

初めに声を発したのは、彼らのリーダー的存在のジェームズ・ポッター。
学年主席であり、かの有名なポッター家の跡取り。
陽気な性格と、無敵ともいえる不敵の笑みは、誰もを勇気づける獅子寮の王。
生徒のほとんどの人気を集めているのは彼である。

「それとも、僕たちの言葉が理解できないくらい低脳なのかな?」

分かりやすい嫌みを言うのは、リーマス・J・ルーピン。
日溜りを感じさせる優しい笑みは女子から絶大な人気を誇り、人当たりの良さから男子からも名が出るほど。
彼はさしずめ参謀か。

「こんな奴があいつの妹だとはな…」

小さく舌打ちをしたのは、シリウス・ブラック。
代々蛇寮であるブラック家の長男。
獅子寮な為、蛇寮の者からは嫌われ気味だが、ニヒルな笑みと整った顔立ちから、ルーピンと女子の人気を二分している。
また、気さくな性格のためか、男子からのものも、ポッターに引けをとっていない。

その後ろに、気まずそうにこちらを見ているのはピーター・ペティグリュー。
前の三人のように、これといって何かあるわけではないが、小柄なその体と柔らかな金の髪のおかげで、一部の者に人気がある。

とたんに、体のバランスが崩れ、少女が手にしていた教科書らが散らばり、少女は地へと叩き付けられた。

「うっわ、馬鹿みたい」

そう言って小さな子供のように声を上げて笑った。
彼らが自分をわざと押したことも、少女は分かっていたが、逆らおうとはせず、ただ黙って散らばった教科書を拾う。
逆らえばよけいに傷付けられるからだ。
人気があるのは何かとストレスが溜まるらしい。
今までは悪戯という行為で気を晴らしていたらしいが、今は少女が格好の餌食となっていた。
その為、ここら数日、主立った行為は見られていない。
しれに今、自分が公で彼らに傷付けられることで、生徒の目が自分に来て、万が一の事がない限り、『あの子』が傷付けられる事がない。

少女はただ、耐えるだけだった。





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UP/05.10.08