nostalgia
アイツと初めてあったのは隊長集会の時。
尸魂界において、前代未聞の話だった。
たった十数年しか生きていない娘が、零番隊隊長に任命されたからだ。
任命式の前に、顔合わせと集められた俺たちは、来る足音と凄まじい零圧に皆、冷や汗をかいていた。
ただ、そいつの顔を見た時は誰もが我が身を疑った。
目の前に現れた少女は、本当に子供で。
この少女が、この凄まじい零圧を放っているのかと。
この零圧が、少女の真の強さを証明しているのだと。
余りにもこの少女が涼しい顔をしているから、コレが普通の状態だと考えると、身が震えた。
でも、腰まで届くほどの黒髪と。
俺と同じように、背に背負った長いその斬魄刀が忘れられなかった。
二番目にあったのは始めてから五ヶ月が過ぎていた。
執務室で仕事をしていると、気配も無しに扉が開いて。
何だと思えばアイツがいた。
随分と気配を消すのが上手くなったと、感心する反面何のようだと眉を顰めた。
アイツは声を上擦らせて俺に尋ねる。
「あぁ、ええっとぉ。ら、乱菊さんは…」
松本にようなのかと、少し気が抜ける。
ココにはいないと言いかけたところ、松本が姿を現した。
「ここにいらしてたんですか。探しましたよ」
「ごめん、ちょっと迷っちゃって」
控えめに笑ったアイツは、すぐに二人で何処かえと行ってしまった。
三度目にあったのはそれから一週間後。
松本と仲が良いらしいアイツは、よくココを訪れるようになった。
今日はなんでも、大虚を倒してきたとかで。
それを聞いて思わず筆を落としそうになった。
俺ら隊長格でさえ、メノスを倒すのは困難と言われているのに。
それをやってのけたアイツは流石零番隊隊長といったところか。
軽くあしらうと、眉を垂れ下げたが、松本が何か耳打ちをするとすぐに笑顔に戻った。
よく笑う奴だと思った。
二人で遊ぶようになったのはあれから一ヶ月。
気が乗らなかったが、アイツは無理矢理俺を引きずって現世へと向かう。
初めてあったときから随分と豪快になったと思う。
「あらら、日番谷くんは背が低い為ジェットコースターには乗れないようだね。」
けらけらと笑ったアイツに見下されたあの日。
確かにアイツは俺より背が高かった。
アイツを好きになったのは、アイツが涙を見せた月夜の晩。
アイツは一人泣いていた。
現世で生きる家族を想って。
もぅ、共に生活できないのだと泣いていた。
いつも笑っているアイツだから、涙を見たのは衝撃的で。
同時に護りたいと思った。
こんなガキを好きになるなんて、自分でも思ってみなかったけれど。
この気持ちは確かのモノで。
その夜は、アイツの隣で、アイツの手を握って。
その時初めて握ったその手は冷たかった。
アイツの心配をしたのは初めてあってから一年後。
バカみたいに夏風邪をひいたアイツ。
「知ってるか、夏風邪はバカしかひかねーんだぞ」
「バカじゃないよ。ったく、とーしろーくんはいったい何しに来たのさ!」
からかってやると、ふて腐れて布団を頭まで被った。
その時にはもうすでに、俺の呼び名は『日番谷くん』から間延びした『とーしろーくん』に変わっていた。
布団の中でかき氷が食いたいと漏らしたアイツ。
仕方なくかき氷を作ってきてやると、嬉しそうに笑って受け取った。
「ありがとう、とーしろーくん」
そう言ったアイツの笑顔が嬉しくて。
初めて告白したのはアイツの十四の誕生日。
一世一代の大決心で。
告白すれば、アイツは目をぱちくりとさせて。
数秒遅れて、
「私も、とーしろーくんの事が、好き、です」
返事をくれた。
初めてキスをしたのは付き合い始めて一ヶ月。
無駄に騒がしい松本と雛森が、変に気を利かせて二人きりになった時。
どちらともなく自然にしたそれは、とても恥ずかしくて。
アイツの唇がとても柔らかくて。
真っ赤になった俺を、同じように顔を赤くさせたアイツは笑った。
―――あの時の俺たちは幸せだった。
幸せで、幸せで。
ふざけて、泣いて、怒って、照れて、笑ったアイツが好きで。
幸せで。
初めて出会ってから三年後。
アイツは。
俺の目の前から姿を消した―――。
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nostalgia/郷愁
UP/05.11.14