フェイタンが寝室に行った後、マチは風呂の湯沸かしとコーヒーメーカのスイッチを入れる。
冷蔵庫の中を覗くと少量の飲み物と野菜とハム、それに食パンが数枚だけだった。
あの二人はいつも旅団の誰かといる、家で食事を摂ることはあまり無いのだろう。
そんなことを考えていると、がゆっくりとした足取りで寝室から出てきた。
大方フェイタンに追い出されたのであろう、瞼が殆ど落ちている。
「ったく、いつまで寝てるんだ」
「んー…?」
聞き慣れている声に、は目を擦りながら重たい瞼を上げた。
「あー、マチだぁ。何でいるの?」
しまりのない顔で笑った。
そんな彼を不覚にも格好いいと思ってしまうのは惚れた弱味か。
「アンタが起きないから、起こしに来たんじゃないか」
「えー、俺起きてるよ」
倒れるようにマチに抱きつく。
ギュッと抱き締めてから、存在を確認するかのように髪に触り頬にキスをする。
コレは確実に寝ぼけている。
「、重い。さっさと風呂入って、目ぇ覚ましな」
のアゴを押さえて自分から離す。
実際重くなんて無いのだけれど、自分だって羞恥心というのを持ち合わせている。
いくらココには自分との二人だけ(寝室にフェイタンとが入るが、こういう言い方が正しいだろう)と言えど、恥ずかしいものは恥ずかしい。
しかしは一向に離れようとはしない。
逆に離すまいと、マチを抱き締める腕の力が強まった。
「いい加減にしないと、その首切り落とすよ」
「だぁめ。そしたらマチとちゅーできなくなる」
「!!」
マチは顔を真っ赤にしてを突き放した。
耳元でそんなことを言うなんて!
寝ぼけ声が妙に色っぽくて耳の奥がゾクゾクする。
「さっさと風呂行け!」
ムリヤリバスルームに押し込めた。
扉を背にため息をつくと前髪をかき上げる。
昔は女の子と見間違えるほど小さくて可愛らしかったというのに、今や「男」となっていたに、マチは少し憎らしさを覚えた。
まだ熱の引かない顔を手で仰ぎながらキッチンへ向かい、冷蔵庫の中を全て取りだした。
それらの食材を眺め、
「(サンドウィッチくらいなら、あたしでも作れるか)」
そんなことを考えた自分に思わず寒気がする。
しかし自分も随分と女らしくなってきたと思う。
昔はもっと男勝りだったというに、これも全部のせいと言うかおかげと言うか。
マチはフッと微笑むと、こんな日があっても良いかと思い食パンを一枚、手に取った。
そんなある日の昼の午後。
UP/06.05.04