彼が、綺麗だと言った黒髪は。
彼女を思い出すから、捨てようと。



「本当に良いんですね?」

浦原さんが言うのに、黙って頷いた。



Let's forget.



忘れましょう、貴方の事を。
忘れましょう、彼女の事を。
忘れましょう、自分の事を。



「あそこは、幼い私には辛すぎる」



貴方が、私を愛してくれた事を。
彼女が、私を信じてくれた事を。
自分が、彼らとともにいた事を。



「記憶をなくしてまで?」



忘れましょう、貴方の事を。
忘れましょう、彼女の事を。
忘れましょう、自分の事を。



「記憶とは、時に重すぎます」



貴方に、出会わなければ良かった。
彼女に、出会わなければ良かった。
自分が、死神にならなければ良かった。



「そう…、ですか」



忘れましょう、貴方の事を。
忘れましょう、彼女の事を。
忘れましょう、自分の事を。



「もう、決めました」



貴方を、愛した事を。
彼女を、信じた事を。
自分が、共にいた事を。



「では、義骸はどうしましょう。外観はそのままで?」



忘れましょう、貴方の事を。
忘れましょう、彼女の事を。
忘れましょう、自分の事を。



「そう、ですね…」



貴方が、好きだと言ったこの髪は。
彼女が、綺麗だと言ったこの髪は。
自分が、気に入っていたこの髪は。



「髪を、変えて下さい」



切り捨てましょう、貴方の事を。
切り捨てましょう、彼女の事を。
切り捨てましょう、自分の事を。



「肩ぐらいまで、思い切り」



貴方が、褒めたこの色は。
彼女が、羨んだこの色は。
自分が、自慢のこの色は。



「あと、色も」



忘れましょう、貴方の事を。
忘れましょう、彼女の事を。
忘れましょう、自分の事を。



「朱とか、茶。いいえ、……銀色に」



貴方と、同じその色に。
彼女の、好きな彼の色に。
自分が、愛した貴方の色に。



「銀、…ですか?」



忘れましょう、貴方の事を。
忘れましょう、彼女の事を。
忘れましょう、自分の事を。



「矛盾している事は、解っています」



忘れたい、貴方の事を。
忘れたい、彼女の事を。
忘れたい、自分の事を。



「それでも私は」



忘れたくない、貴方の事を。
忘れたくない、彼女の事を。
忘れたくない、自分の事を。



「彼を愛しているから―――…」



忘れましょう、貴方の事を。
忘れましょう、彼女の事を。
忘れましょう、自分の事を。



「彼女が好きだから―――…」



忘れましょう、貴方の事を。
忘れましょう、彼女の事を。
忘れましょう、自分の事を。



「でも…」



忘れましょう、貴方の事を。
忘れましょう、彼女の事を。
忘れましょう、自分の事を。



「それは憎しみとなる」



忘れましょう、貴方の事を。
忘れましょう、彼女の事を。
忘れましょう、自分の事を。



「だから忘れるのです」



忘れましょう、貴方の事を。
忘れましょう、彼女の事を。
忘れましょう、自分の事を。



「わかりました」



忘れましょう、貴方の事を。
忘れましょう、彼女の事を。
忘れましょう、自分の事を。

貴方が、私を愛してくれた事を。
彼女が、私を信じてくれた事を。
自分が、彼らとともにいた事を。

貴方に、出会わなければ良かった。
彼女に、出会わなければ良かった。
自分が、死神にならなければ良かった

貴方を、愛した事を。
彼女を、信じた事を。
自分が、共にいた事を。

切り捨てましょう、貴方の事を。
切り捨てましょう、彼女の事を。
切り捨てましょう、自分の事を。

忘れたい、貴方の事を。
忘れたい、彼女の事を。
忘れたい、自分の事を。

忘れたくない、貴方の事を。
忘れたくない、彼女の事を。
忘れたくない、自分の事を。

忘れましょう、貴方の事を。
忘れましょう、彼女の事を。
忘れましょう、自分の事を。





目覚めた時の私は、何も覚えていなかった―――。





忘れましょう、貴方の事も。
忘れましょう、彼女の事も。
忘れましょう、自分の事も。






Let's forget./忘れましょう。
UP/05.12.11